交通事故の基礎知識

交通事故に関する法律から自動車の知識まで、交通事故にあってしまったら知っておきたいことを弁護士が分かりやすく説明します!

分野別の目次は、こちらの【コラム目次】をご覧ください

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交通事故における損益相殺とは?弁護士が「利益」の仕組みを解説

交通事故の被害者が、交通事故をきっかけとして何らかの金銭を受け取った場合、加害者に請求出来る損害賠償の金額は、すでに受け取った金銭を考慮した金額となります。

これを損益相殺といいます。

では、どのようなものが損益相殺となるのでしょうか?また、どのような損害項目から差引かれるのでしょうか?差引かれる順番は?

これらについて項目別に説明します 

 

1 加害者からの弁済

 ⑴ 損益相殺の対象となるか?

加害者から、損害賠償の一部が先に支払われていた場合には、当然に損益相殺の対象となります。

 ⑵ どの損害項目から差引くか?

   とくにどの項目からという決まりはなく、損害全体から差引きます。

⑶ 過失相殺との前後関係は?

   加害者側の負担すべき損害に充当するものですから、全体の損害を計算し、過失相殺をしたあとの金額から差引きます。

 ⑷ 損害元本に充当か遅延損害金に充当か?

   原則として事故日に元本に充当されたものとして扱います。

 

2 自賠責保険金

 

 ⑴ 損益相殺の対象となるか?

自賠責保険も、加害者が支払うべき損害賠償金の一部を補填するものなので、当然に損益相殺の対象となります。

 ⑵ どの項目から差引くか?

自賠責保険は、交通事故で負った身体的な損害(人身損害)を補償する保険ですから、損害賠償金のうち人身損害部分にのみから差引きます。

   その際、過失割合によっては、自賠責保険金が過失相殺後の被害者の損害額を上回ることがありますが、そのような場合でも、自賠責保険は人身損害について支払われるものですから、余った分について物損から差引くことはできません。

   つまり、過失割合が多い場合は、自賠責保険の給付を優先した方が得になる場合があるということになります。

⑶ 過失相殺との前後関係は?

  上記に先に書いてしまいましたが、過失相殺後の被害金額から差引きます。

⑷ 損害元本に充当か遅延損害金に充当か?

遅延損害金に優先的に充当し、余った分を元本に充当します。

 

3 加害者の任意保険(自動車保険)

⑴ 損益相殺の対象となるか?

   加害者側の任意保険からの支払いは、加害者自身による支払いと実質的には同じなので、損益相殺の対象となります。

⑵ どの損害項目から差引くか?

対人保険は人身損害に対して支払われるお金ですから人身損害から、対物保険は物的損害に対して支払われるお金ですから、物損から差引くことになります。

 なお、加害者側の保険会社が治療費を立替払しているケースがありますが、本来加害者が支払うべき金額以上の治療費を支払っている場合には、超過支払い分は被害者の損害全体から差引かれます

⑶ 過失相殺との前後関係は?

  加害者に代わって支払うものですから、損害全体を計算し、過失相殺をしたあとの金額から差引きます。

⑷ 損害元本に充当か遅延損害金に充当か?

   事故発生日に損害元本に充当するのが原則です。

 

4 加害者からの見舞金、香典

  見舞金や香典は、慣習上行われる贈与と考えられており、原則として損益相殺の対象とはならず、損害賠償額からは差引かれません。

  ただし、金額が相当高額であったり、受け取ったときの経緯などによっては、損害賠償の一部と認定され、損益相殺の対象となることがあります。

 

5 労災保険金

 ⑴ 損益相殺の対象となるか?

労働災害補償保険法による給付金は、その名のとおり損害を補償するものなので原則として損益相殺の対象となり、損害賠償額から差引かれます。

   ただし、特別支給金など、損害を補償する目的でないものがあり、その部分については損益相殺の対象とはなりません。

   具体的に項目を挙げると以下のようになります。

 【損益相殺の対象となる支給項目】

 ・療養給付

  ・休業給付

  ・障害給付(障害年金、傷害一時金)

  ・遺族給付(遺族年金、遺族一時金)

  ・傷病年金

・葬祭料、葬祭給付

  ・介護給付

  【損益相殺の対象とならない支給項目】

 ・遺族特別年金、遺族特別一時金、遺族特別支給金

 ・休業特別支給金、障害特別支給金

 ・傷病特別年金

  ・障害特別年金、招待特別年金差額一時金

 ⑵ どの損害項目から差引くか?

  ・療養給付→治療関係費

  ・休業給付休業損害と後遺障害による逸失利益の合計額

  ・障害給付(障害年金、傷害一時金)同上

  ・遺族給付(遺族年金、遺族一時金)同上

  ・傷病年金同上

・葬祭料、葬祭給付葬儀費用

  ・介護給付介護費

⑶ 過失相殺との前後関係は?

   損害全額を計算し、過失相殺したあとの金額から差引かれます。

 ⑷ 損害元本に充当か遅延損害金に充当か?損益相殺の対象となるか?

   原則として事故発生日に損害元本に充当します。

 

3 遺族年金、障害年金

 

 ⑴ 損益相殺の対象となるか?

遺族年金や障害年金については損益相殺の対象となり、損害賠償額から差引かれます。

なぜなら、国民年金法や厚生年金保険法、国家公務員等共済組合法で、支払いを行った機関が、その支払った額について加害者へ請求できるものとされているため、当該支払い額については、被害者から加害者へは請求権がなくなるからです。

なお、公務員については、国家公務員災害補償法によって遺族補償金というものも給付されますが、こちらも同様に損益相殺の対象となります。

 ⑵ どの損害項目から差引かれるか?

   遺族年金死亡逸失利益

   障害年金休業損害と後遺障害逸失利益の合計額

⑶ 過失相殺との前後関係は?

   遺族年金、障害年金については、裁判例が統一されておらず、損害総額から差引いた後に、過失相殺をするという裁判例と、過失相殺をしたあとに差引くという裁判例があります。

   被害者側からすれば、総額から差引いた方が請求額が大きくなるので、請求段階では損害総額から差引いて請求しましょう。

⑷ 損害元本に充当か遅延損害金に充当か?

   原則として事故発生日に元本に充当します。

 

 

4 被害者が加入していた自動車保険からの給付金

 ⑴ 損益相殺の対象となるか? 

被害者が加入していた保険からの給付金については、損害の補償として支払われ、支払われた金額について保険会社が加害者に請求権を持つものについては、損益相殺の対象となり、損害賠償額から差引かれます。他方で、これまで支払ってきた保険金の対価といえる給付金については損益相殺の対象とはなりません。

   具体的には、以下のようになります。

 【損益相殺の対象となる給付金】

 ・人身傷害補償保険金

・無保険車傷害保険金

・車両保険金

【損益相殺の対象とならない給付金】

・搭乗者傷害保険金

・自損事故保険金

⑵ どの損害項目から差引かれるか?

  それぞれの目的に応じて以下のようになります。

 ・人身傷害補償保険金→人身損害

・無保険車傷害保険金→人身損害

・車両保険金→物的損害

⑶ 過失相殺との前後関係は?

  上記の損益相殺の対象となる給付金については、ちょっと特殊な充当の仕方をします。

  まず、被害者の過失割合に相当する部分に充当し、残りを加害者の過失割合に相当する部分に充当します。

  たとえば、損害額が1000万円、過失割合が被害者:加害者=2080、保険給付金300万円とします。

  その場合、被害者の過失割合に相当する金額=1000万円×20%=200万円となり、ここに優先的に充当され、残った100万円が加害者の過失割合に相当する金額=1000万円×80%=800万円に充当され、800万円-100万円=700万円が加害者に請求出来る金額となります。

⑷ 損害元本に充当か遅延損害金に充当か?

  原則として事故日に元本に充当します。

 

5 被害者の生命保険からの給付金

  被害者が入っていた生命保険から支払われた生命保険金や傷害給付金、入院給付金については、これまで支払っていた保険料の対価と考えられるため、損益相殺の対象とはなりません。

 

6 被害者の所得補償保険からの給付金

 ⑴ 損益相殺の対象となるか?

交通事故の損害賠償として休業損害(仕事を休んだことによる損害)というものがありますが、所得補償保険から支払いがあった場合には、実質的には休業損害が発生しないか、相当安くなることになります。

   ですから、所得補償保険からの給付金は損益相殺の対象となり損害賠償額から差引かれます。

 ⑵ どの項目から差引かれるか?

   休業損害部分です。

 ⑶ 過失相殺との前後関係は?

   先に損害全体から差引き、その後に足りない部分について過失相殺します。

 ⑷ 損害元本に充当か遅延損害金に充当か?

   原則として事故日に元本に充当します。

 

7 その他

  以下の給付金についても問題とされたことがありましたが、損益相殺の対象とはなりません。

 ・身体障害者福祉法に基づく給付

 ・独立行政法人自動車事故対策機構法に基づく介護料

 ・生活保護法に基づく扶助料

 ・雇用対策法に基づく職業転換給付金

 ・特別児童福祉扶養手当

弁護士 本田幸則