交通事故の基礎知識

交通事故に関する法律から自動車の知識まで、交通事故にあってしまったら知っておきたいことを弁護士が分かりやすく説明します!

分野別の目次は、こちらの【コラム目次】をご覧ください

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加害者が保険利用を拒んでいても保険会社に支払いを請求できます!

交通事故加害者の中には、「任意保険は利用しない」と主張する方がいます。

非常に腹立たしいでしょうが、大丈夫です。

相手が任意保険に入っていれば、保険会社に直接支払いを請求出来ます。

ところで、加害者がなぜこんなことを言うのだろうと疑問を持つ方もいると思いますが、実際に私が加害者から言われたのは「自分は悪くないからお金は支払わない。支払う必要がないのだから任意保険を利用する必要もない」というものです。

ですが大半の加害者は「保険は使わない」と言うだけで本当の理由は分かりません。

保険会社ものんきなもので、「ご契約者さまが保険を使わないと言っています」などと言うだけです。 

 

1 保険会社が被害者に直接損害賠償を支払わなければならない根拠

 

  保険会社が被害者に直接支払わなければならない根拠は、保険会社の普通契約約款の規定です。

  約款のどこに記載されているかや、日本語的な言い回しは微妙に違いますが、各社同趣旨のことが記載されています。

  ここでは最大手の東京海上日動火災保険の約款を例に説明します。なお、各社の約款はインターネット上から見ることができますし、分からなければ保険会社に請求すればもらえます。

  さて、東京海上日動火災保険の201641日以降の保険契約者に適用される一般自動車保険の普通保険約款には次のように記載されています。

 6条(損害賠償請求権者の直接請求権)

⑴ 省略

⑵ 当会社は、下表のいずれかに該当する場合に、損害賠償請求権者に対し

⑶に規定する損害賠償額を支払います。(ただし書き省略)

 ① 被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で、判決が確定した場合または裁判上の和解もしくは調停が成立した場合

 ② 被保険者が損害賠償請求者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求者との間で、書面による合意が成立した場合

 ③ 損害賠償請求者が被保険者に対する損害賠償請求権を行使しないことを被保険者に対して書面で承諾した場合

 ④ 法律上の損害賠償精勤を負担すべきすべての被保険者について、次のいずれかに該当する事由があった場合

  ア 被保険者またはその法定相続人の破産まはた生死不明

  イ 被保険者が死亡し、かつ、その法定相続人がいないこと

 ⑤ 対人事故の場合、⑶に規定する損害賠償額が保険証券記載の対人保険金額を超えることが明らかになったとき

⑶以下省略(⑶は、損害額の計算に関する規定です)”

 

  加害者が任意保険の利用を拒否しているケースで、加害者と示談が成立することは考えづらいので、実質的には上記のうち①または③を根拠に保険会社に請求することになります。

  ①は、要するに加害者相手に裁判をして結論が出た場合ということです。

  ③は、被害者が加害者には請求しませんという書面を書いたときです。 

 

2 裁判では誰を被告として訴えるか?

 ⑴ 加害者のみを訴える

   もっともオーソドックスな訴え方です。

   加害者との間で判決が確定したり、裁判上の和解が成立すれば、上記①の要件を満たすため保険会社に支払いを請求することができます。

   たいていの場合は、加害者のみを訴えれば問題ないのですが、2つ問題が生じる可能性があります。

  ア 保険会社が、保険金が支払われないケースに当たると主張している場合

   前述の東京海上日動火災保険の場合、3条に保険金を支払わない場合が規定されています。

   具体的には、加害者が故意で事故を起こした場合と、天変地異や戦争の場合です。

   裁判前に加害者側の保険会社が、「故意による事故だから保険金を支払う必要がない」と主張している場合には、加害者のみを訴えたのでは保険会社の支払い義務について裁判所は判断しないので、保険会社を被告として訴える必要があります。

  

 イ 加害者が保険会社に訴えられたことを知らせない可能性がある場合

   加害者を被告として訴えると、訴状などは加害者の住所に届けられます。

   そうすると、少数ではありますが、訴えられたことを保険会社に知らせず、加害者本人が訴訟対応することがあります。

   こうなると、素人が訴訟対応するわけですから、訴訟がスムーズに進みません。

   早期解決のためには、プロを相手にしたいですから、加害者が任意保険利用を拒否しているケースでは、加害者のみを訴えるのはやめておいた方が良いのではないかと思います。 

 

 ⑵ 加害者と保険会社を訴える

 上記①は、要するに加害者との間で損害賠償額が決まれば良いので、加害者と一緒に保険会社を訴えて、保険会社に対する請求は加害者との間で損害賠償額が決まったときには支払えという条件付きにしておけばよいということになります。

   この方法のデメリットは、被告が2人になるので、ややこしくなるということです。

   もっとも、実際には同じ弁護士が加害者と保険会社の両方を代理するでしょうから、加害者と保険会社の主張が異なり、訴訟が複雑化することは少ないのではないかと思います。

   仮に加害者が「自分の分は自分でやる」といったとしても、そのような加害者は、加害者のみを訴えた場合でも「自分でやる」と言うでしょうから、加害者のみを訴えた場合でも混乱度合いは大きく変わらないでしょう。 

 

 ⑶ 保険会社のみ訴える

 

 上記③の被害者が加害者には請求しませんという書面を書いたときという要件を満たす場合には、保険会社に直接損害賠償を請求できるはずです。

つまり、裁判を起こす前に加害者に損害賠償を請求しない旨の書面を送るか、訴状の中に加害者には請求しない旨を記載すれば保険会社のみを被告として訴えることができるということになるはずです。

ところが、この方法を認めないとした裁判例があります(仙台高等裁判所平成26328日判決)。

この裁判例に関しては批判も強いところですし、最高裁判所の判決ではないので、担当裁判官によっては訴えを認めてくれる場合もあるかもしれません。

ただし、私は、訴えが却下されるリスクをおかしてまで保険会社のみを訴える意味があるとは思えません。

 

3 まとめ

 以上より、加害者が任意保険を使わないと言っていて話にならないときは、加害者と保険会社を共同被告として訴えるのが現時点ではベターな方法ではないかと思います。

弁護士 本田幸則