交通事故の基礎知識

交通事故に関する法律から自動車の知識まで、交通事故にあってしまったら知っておきたいことを弁護士が分かりやすく説明します!

分野別の目次は、こちらの【コラム目次】をご覧ください

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交通事故の過失割合の基本的な考え方

交通事故で最も争われるのは、どちらがどれだけ悪かったかという過失割合です。

保険会社から提案された過失割合に納得いかないという方も多いのではないでしょうか?

それも当然です。

なぜなら、保険会社の担当者の多くは、判例タイムズという本から似たような図を探しているだけなのですから。

判例タイムズは、裁判になっても参照される重要な文献ですが、単に図を見ればよいというものではありません。

また、判例タイムズには載っていない事故状況については、似ているものを探せばよいというものではありません。

保険会社に言いくるめられないように、過失割合の基本的な考え方について知っておきましょう。

 

【目次】

1 過失割合の基本的考え方

2 保険会社が根拠として主張する判例タイムズとは?

3 判例タイムズを使うに当たっての注意点

4 判例タイムズに記載のない事故の過失割合の考え方

5 具体例

 

1 過失割合の基本的考え方

まず、厳密には過失割合ではなく、過失相殺率という方が適切です。

過失相殺率は、どちらがどれだけ悪いのかというより、被害者に生じた損害をすべて加害者に負担させるのが公平かという観点から判断されることになります。

もっとも、事故の状況(事故態様)のみに着目した過失相殺率≒過失割合といって良いと思いますので、このコラムではとくに区別せずに使います。

 では、この過失割合は、どのような点に着目して決定されているかですが、大きく分けて4つの要素を考慮します。

 

⑴ 道路交通法などに基づく優先関係

  道路の通行方法については、道路交通法と道路交通法施行令によって決められています。

  ですから、交通事故の過失割合を決めるに当たって最も重視されるのは道路交通法と道路交通法施行令です。 

たとえば、最近受けた相談で、自動車で交差点を右折しようとしたところ、後ろを走っていた自動車が右側から追い越そうとして、右折し始めた先行車両と衝突したという事故がありました。

このような事故の場合、右折車が道路交通法34条で定められている義務(30m以上前からウインカーを出し、中央線に寄り、徐行しながら曲がる)を守って走行している場合には、後行車両は右折車の右側から追い越しをすることを道路交通法により禁じられているので、そのような追い越しをした後行車両に過失のすべてがあり、先行右折車に過失はないのが原則となります。

 

⑵ 優者の危険負担

  優者の危険負担とは、事故になった際に相手に大きな損害を与える可能性のある車両に乗っている方が、より注意して走行するべきであるから、事故になった場合には過失割合を加重するという考え方です。

  つまり、歩行者より自転車が、自転車より自動二輪が、自動二輪より自動車が原則として過失割合が高いということになります。

 

⑶ 要保護者修正

  要保護者修正とは、幼児や高齢者、身体障害者など社会的に弱い立場にある者については、車両の接近に気づかなかったりすることもあり得ることから、車両運転者の方が配慮すべきという考えから、被害者が社会的弱者の場合には、被害者側の過失を軽減しようという考えです。

 

⑷ 運行慣行

  運行慣行による修正とは、法律にはなっていないけれど、運転者の慣行としてそのような走行方法をする者が多く、相手の車両がそのように行動することは予想できたのではないかという場合に修正することです。

  たとえば、信号機のある交差点を右折する場合、右折車は信号が青色の時は直進車がいるために右折がしづらく、信号が黄色になったときに対面直進車が停止することを予測して右折を開始することが慣行化されていることを考慮して、青信号での右折車と直進車の事故での右折車の過失割合よりも、黄信号での右折車の過失割合の方が低く認定されることがあります。 

 

2 保険会社が根拠として主張する判例タイムズとは?

過失相殺率の基本的な考え方は上記のとおりですが、交通事故は全国で毎日相当な件数起こっています。

そこで、典型的な事故事例については、おおよその目安を決めて、担当裁判官によるばらつきを少なくしようということから、よくある事例について過失相殺率をまとめたものが「別冊 判例タイムズ38 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準」という本です。

 この本は東京地方裁判所民事第27部(交通事故専門部)の見解がまとめられたものですので、裁判になった場合には、この本に載っている事故態様の過失相殺率は、この本のとおりとなると考えて良いでしょう。

 では、保険会社が主張する「判例タイムズに書いてあります」が常に正しいのかというと、そうではありません。

 なぜなら、保険会社の担当者の多くは、判例タイムズをよく読んでいないからです。

 

3 判例タイムズを使うにあたっての注意点

判例タイムズの構成は、最初に交通事故訴訟の注意点について書かれ、その後に過失相殺率について書かれています。

 過失相殺率については、各種用語の解説の後にかいてあり、序文で基本的な考え方が書かれ、その後に事故態様ごとの記載がされています。

 この事故態様ごとの記載も、最初に基本的な考え方が書いてあり、その後に、具体的な事故態様ごとに図がかかれ、その修正要素が書かれています。

 さらに、各図には注意書きも書いてあります。

 ところが、保険会社の担当者には、これらの序文や注意書きなどを読まずに、「似たような図がある」というだけで、「判例タムズに書いてある」と主張する方が多くいます。

 そのため、その図を適用すべきではないような場面であるのに、「判例タイムズに書いてある」と主張し、もめることとなります。 

 被害者の中には、そもそもその図を適用すべきではないのに、保険会社が「判例です」と主張するために、あきらめてしまう方が多いのではないかと思います。

 

4 判例タイムズに記載のない事故の過失割合の考え方

 もうひとつ、保険会社からの主張で多い誤った主張が、「判例タイムズの●●に似ている」という主張です。

 しかし、上記2でも書いたとおり、判例タイムズは典型的な事故についてまとめたもので、それ以外の事故については適用すべきものではありません。

 そのような判例タムズに載っていない交通事故の過失割合は、原則にもどり、⑴道路交通法及び同施行令の規定を基礎として、⑵優者の危険負担、⑶要保護者修正、⑷運転慣行などで修正して考えていくことになります。

 もっとも、⑵~⑷の修正要素を考慮するに当たり、判例タイムズの修正割合を参考にすることはありますし、判例タイムズの考え方も参考にします。

 また、類似した裁判例がないかも検索し、その裁判例も参考にします。 

 

5 具体例

   歩行者が青点滅信号で道路を横断し、右折車と衝突したときの過失割合

 ・右折車を後ろを走っていた車が右から追い越そうとした場合の過失割合

 ・追突事故の過失割合は原則10:0ですが修正されることもあります

弁護士 本田幸則